「戦略を語ろう」と言った瞬間、話が急に“きれい”になります。
そして多くの場合、こう変わる。
- 勝つ算段 → 立派な方針
- 根拠 → 目標値
- 尖り → 無難
悪意があるからではありません。
公表や説明には、“分かりやすさ”の圧力がかかるからです。
ここで言う戦略は、気合いや希望ではなく、勝つための算段です。
算段には、必ず根拠が要ります。
この記事で得られること
- 「戦略」が「希望」や「計画」に落ちる理由が、言葉で説明できる
- 公表資料・事業計画・社内スローガンの中から、“戦略のフリ”を見分けられる
- 自社の文章を「算段(根拠つき)」に戻す、最短の点検軸が手に入る
先に整理(比較)
まず、混ざりやすい3つを分けます。
ここを分けないと、議論は必ず「やること」と「数字」に吸い込まれます。
| それは何? | いちばん大事な中身 | 文章の見た目 | ありがちな誤解 |
| 戦略(算段) | 「なぜ勝てるか」の根拠 | 分かりにくいことがある/尖る | “分かりやすいほど良い”と思う |
| 計画 | いつ何をどれだけやるか | 手順・期日・担当・KPIが中心 | “計画がある=戦略がある” |
| 意向表明(希望) | やりたい/目指す | きれいな言葉・スローガン | “気持ちを語れば戦略” |
戦略だけが「勝てる根拠」を持っている。
目標や計画は、根拠の代わりにはなりません。
なぜ“公表された戦略”は弱くなるのか
戦略を外に出すとき、何が起きるか。
だいたい次の順で起きます。
- 反発されない言葉にする
- 誰にでも分かる言葉にする
- 数字で一言にする
- 「やること」に落とす
すると、戦略はこう変質します。
- 勝つ算段 → “良さそうな方向性”
- 根拠の鎖 → “正しいこと”の羅列
- トレードオフ → どれもやる
公表の目的は「誤解を減らす」ことになりやすい。
でも戦略の目的は「勝つ」ことです。
勝つ算段は、どこかで必ず尖ります。尖るほど、公表には不向きになります。
目標値は、戦略ではない
よくあるのが、これです。
- 「シェア◯◯%を取る」
- 「売上を◯◯にする」
- 「成長率◯◯」
分かりやすい。伝えやすい。炎上もしにくい。
でも、それは多くの場合、戦略ではありません。
戦略で問うべきは、数字の前です。
- その数字は、競争上どの争点に効くのか?
- どうやって取るのか?
- 相手が真似できない根拠は何か?
数字は「結果の表現」です。
勝てる根拠(算段)の代わりにはなりません。
戦略が“分かりにくくなる”のは、欠点ではない
ここが一番、誤解されやすいところです。
戦略は、未来に向けた構想です。
未来は不確実です。だから戦略は、どうしても「仮説」になります。
仮説である以上、優れた戦略ほどこうなりがちです。
- 説明しきれない部分が残る
- すべてを言語化すると、むしろズレる
- 分かりやすく整えた瞬間に、尖りが削れる
だから「分かりやすい戦略」には注意が要る。
分かりやすさのために、戦略が“計画”へ吸い込まれていることがあるからです。
対話:社長、その文章は“戦略”ですか?
社長:戦略って、分かりやすく説明できないとダメですよね。
私:説明は必要です。ただ、順番を間違えると危ないです。
社長:順番?
私:まず「勝つ算段」がある。説明はその後。
説明のために整え始めると、算段が“無難な言葉”に置き換わります。
社長:じゃあ、見分けるコツは?
私:簡単です。「根拠」があるかどうか。
根拠が薄い文章は、だいたい希望か計画です。
社長:根拠って、何を見ればいい?
私:最低限、3つだけ点検しましょう。
この3つが揃うと、戦略は“強く”なります。
実践:あなたの文章を「算段」に戻す3点検査
今ある「戦略っぽい文章」を1つ選んで、次を埋めてください。
埋まらないなら、その文章はまだ“希望”です。
- 争点は何か?
(勝敗を分ける決定的要素は何か。1つに絞る) - 模倣されない根拠は何か?
(相手が分かっていても再現できない理由は何か) - 戦うほど強くなる仕組みはあるか?
(今日の差が、明日もっと広がる構造があるか)
この3つが揃うと、文章は一気に「算段」になります。
逆に言えば、揃わないのに公表できるのは——
それが「希望」だから、です。
結び
戦略は、説明の上手さで評価されるものではありません。
戦略の重さは、根拠の深さで決まります。
公表や会議で戦略が薄まったら、こう戻してください。
「それは目標だ。勝てる根拠(算段)は何?」
この問いが出る組織は、強いです。
おすすめ書籍
ビジネス系
- 良い戦略、悪い戦略(リチャード・P・ルメルト)
「希望っぽい戦略」を、争点と打ち手の束に戻す。この記事の論点に直結します。 - ストーリーとしての競争戦略(楠木 建)
戦略を「正しさ」ではなく「勝つ算段」として扱う感覚が、言葉で掴めます。 - 競争戦略論(マイケル・E・ポーター)
「改善」と「戦略」を混ぜないための基礎体力がつきます。トレードオフの感覚が残ります。 - ザ・ゴール(エリヤフ・ゴールドラット)
“勝てる根拠”を物語で体得する。会議が手段や数字に吸い込まれにくくなります。
非ビジネス系
- ファスト&スロー(ダニエル・カーネマン)
なぜ人が「仮説」より「確実」に寄るのか。戦略が計画に落ちる心理面の補強になります。 - 科学革命の構造(トーマス・S・クーン)
枠組みが変わると、同じ現実の見え方が変わる。戦略が“言葉だけ普及する”現象の理解に効きます。 - 哲学探究(ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン)
言葉の意味を「定義」ではなく「用法」で捉える視点。戦略という多義語の扱いが上手くなります。 - 孫子
「手の内を先に言わない」感覚の原点。公表戦略の矛盾を、古典の粒度で確認できます。

