——「集客〜受注」の詰まりを一点に絞って直し、売上を“再現できる状態”にする
現場では、こういう言葉が出ます。
- 「商品(サービス)には自信があるのに、売れない」
- 「紹介なら受注できる。でも紹介がないと止まる」
- 「SNSも広告もやった。反応はある。なのに受注が増えない」
- 「結局、営業力がないってことですかね……」
このとき、よく起きるズレがあります。
“順番”を見て、“因果”だと思い込むことです。
たとえば、こういうやつです。
- 広告を出した → 問い合わせが増えた(これは順番)
- だから、広告が原因で売上が伸びるはずだ(これは因果のつもり)
でも実務では、たいていこうなります。
- 問い合わせは増えたのに、受注は増えない
- 売上が伸びない
- 伸びても利益感が薄い
つまり、詰まっているのは広告ではなく、別の場所です。
集客〜受注のどこかに「細いところ」があって、そこで流れが止まっています。
ここで効くのが、ザ・ゴールのTOCです。
TOCは工場(製造)だけの話ではありません。
市場側(集客〜受注)にも、そのまま当てはめられます。
この記事で得られること
- 「売れない」を、気合いやセンスの問題として片づけず、どこが詰まっているか(制約)の問題として扱えるようになります。
- 集客〜受注を、順番(流れ)→ 制約(詰まりの原因)→ 検証の順で回せるようになります。
「やったことの羅列」ではなく、「どこを直せば結果が変わるか」で会議が進みます。 - 広告を増やす前にやるべきことが、再現できる手順として手に入ります。
(広告は“最後に効かせる増幅器”で、先に直す場所がある、という整理ができます)
先に言うと、ポイントはこれです。
要点:
売上を決めるのは、努力量ではありません。
受注までの流れ(フロー)のどこが細いかで決まります。
だから因果は散らさず、制約を一つに絞ってそこに手を打ちます。
先に整理:「売れない」は、流れのどこかが詰まっている
「売れない」は、気合いや才能の問題ではなく、流れ(フロー)のどこかが細くて止まっている状態です。
市場側(集客〜受注)の流れを、最小限で描くとこうなります。
集客 → 接触(認知・流入) → 興味・理解 → 相談・問い合わせ → 提案 → 見積 → 受注 → 継続・紹介
ここで大事なのは、「原因は全部です」にしないことです。
TOCは、因果を散らさず、詰まりを一つに絞って扱います。
- 順番(地図):流れを描き、どこで止まっているかを特定する
- 因果(テコ):止まっている一点に「なぜ止まるか」の仮説を置く
- 検証:数字で確かめ、効いた手を“再現できる形”として固定する
| 観点 | よくある改善(売れない時にやりがち) | 市場側TOC(この記事の型) |
| まず見るもの | 施策の数を見る(SNS/広告/LP/商談…) | 流れを見る(集客→受注のどこが細いか) |
| 因果の置き方 | 原因を一つに絞らず、いくつも並べてしまう | 制約を一つに絞って仮説を置く |
| 先にやること | 集客を増やす/発信を増やす/広告を増やす | 制約を止めない(まず詰まりを徹底的に解消する) |
| 典型的な失敗 | 問い合わせだけ増えて、未対応が積み上がる(機会損失) | 滞留(未返信/未見積/未決裁)を減らし、受注までの速度を上げる |
| 判断軸 | 反応数/PV/フォロワー | 受注速度/滞留(未処理)/営業工数 |
| 改善の姿 | 一発で効く施策を探して、そこに賭ける | 制約が動く前提で、運用として回す(詰まりが移るたびに手を打つ) |
この表が言っていることはシンプルです。
入口を増やす前に、いま流れを止めている一点を動かせ、ということです。
TOCを市場側に移植する:指標を3つに絞る
製造のTOCでは、指標を 「スループット/在庫/業務費用」 の3つに絞ります。
市場側(集客〜受注)でも、同じ考え方で置き換えると運用しやすくなります。
1) スループット(市場側)
受注(または粗利)を生む“流れの速さ”です。
言い換えると、受注までの速度です。
2) 在庫(市場側)
受注に至っていない“滞留”です。
途中まで来て止まっているもの、返事待ちで止まっているもの、決裁待ちで止まっているもの。全部ここに入ります。
例:
- 未返信の問い合わせ
- 止まっている見積
- 放置された商談
- 迷っている見込み客(次の一手が出ていない状態)
3) 業務費用(市場側)
受注に変えるためのコストです。
お金だけでなく、時間と手間も含めます。
例:
- 広告費
- 営業工数
- 提案資料の作成
- 商談の移動時間
- 値引き
- 外注費
ここが肝です。
先に削るのはコストではありません。
まず上げるのはスループット(受注までの速度)です。
そのために、最初に手を付けるのは「在庫(滞留)」を減らすことです。受注の流れ)を増やす。
つまり「売れる流れ」を太くするのが先です。
「順番」は地図、「因果」はテコ —— 支点は「受注までの制約」
市場側(集客〜受注)でも同じです。
- 順番(地図)を描くと、どこで止まっているかが見えます。
- 因果(テコ)を一つに絞ると、全体を動かせる支点ができます。
逆に、因果を散らすとこうなります。
「広告が悪い」「SNSが弱い」「LPが弱い」「提案が弱い」「価格が高い」「営業が弱い」…
→ だから全部やる。
→ でもどれも浅くなる。
→ 疲れる。
→ 結果はほとんど変わらない。
TOCは、ここを止めます。
- 因果は一つに絞る。
- いま全体を止めている制約を先に動かす。
これだけで、打ち手が「増やす」から「絞って直す」に切り替わります。
例:地域のBtoB「問い合わせはあるのに受注が増えない」
たとえば、地域で設備保守をしている小規模事業者。
紹介や既存客は安定している。サイトも作った。広告も少し回した。問い合わせも来る。
それでも受注が増えないとき、現場ではだいたい次が同時に起きています。
- 問い合わせへの返事が遅れる
- 初回ヒアリングが浅くて、提案が刺さらない
- 見積が遅れて、相見積で負ける
- 値引きすると利益が残らない
- 受注後の段取りで詰まり、次の営業が止まる
この状態だと、多くの人は「もっと集客しよう」と言います。
でもTOCは、増やす前にまず 順番(流れ) を描きます。
市場側の流れ(順番)
流入 → 問い合わせ → 初回応答 → ヒアリング → 提案・見積 → クロージング → 受注
ここで、もし詰まっている場所が「提案・見積」だと分かったら、因果は一点に置けます。
制約:提案・見積が遅い(または弱い)
→ 受注までの速度(スループット)を支配している
つまり、このケースで最初に直すべきは「集客量」ではありません。
まずは 提案・見積の滞留を減らして、受注までの速度を上げることです。
広告を増やしても、見積が詰まっている限り、全体は動きません。
むしろ、問い合わせが増えて滞留(在庫)が増え、機会損失が拡大します。
| 症状(起きていること) | 制約候補(詰まり) | まず打つ手(STEP2:徹底活用) |
| 問い合わせが来るのに取りこぼす | 初回応答 | 返信SLAを決める(例:営業時間内2時間)/返信テンプレを用意/担当不在時の引き継ぎルール(代打・自動返信) |
| 商談はするが刺さらない | ヒアリング | 必須質問10個を固定/課題を言語化するフォーマット/次回アクションを必ず決めて終わる(日時まで) |
| 見積が遅い・手戻りが多い | 提案・見積 | 見積テンプレ化/前提条件を固定(範囲・除外・納期)/情報不足のまま作らないルール(不足項目チェック) |
| 相見積で負ける・値引き地獄 | 提案の構造 | 標準プラン+オプション化/比較表を入れる/価値の根拠(事例・実績・保証条件)をセットで出す |
| 決裁で止まる・先延ばし | クロージング | 決裁者同席を設計(同席できない場合の確認項目)/期限の理由を添える(工数・部材・枠)/不安を潰すFAQを渡す |
| 受注後の段取りで崩れ、次の営業が止まる | 納品準備(ここが市場側に跳ね返る) | 納品の型を決める/段取りチェックリスト/着手条件を明確化(入金・情報・立会い等) |
この表は、いわば「制約の当たりをつけるレンズ」です。
当たりがつけば、次はTOCの5ステップで“動かしに行く”だけです。
TOCの5ステップを、市場側(集客〜受注)に当てはめる
STEP1:制約を特定する(全体を止めている一点を探す)
ここでやるのは「弱いところ探し」ではありません。
全体の流れを止めている一点を探します。
見込み客が落ちる場所、滞留(未処理)が増える場所。そこが制約です。
よくある制約は、次のどれかです。
- 返信が遅い(初回応答が制約)
- ヒアリングが浅い(理解が制約)
- 見積が遅い(提案・見積が制約)
- 決裁が進まない(クロージングが制約)
- 受注後の段取りで崩れる(納品準備が制約)
STEP2:制約を徹底活用する(止めない・迷わせない)
制約は「王様」です。
ここが止まった瞬間、受注までの速度(スループット)が止まります。
だから最初にやるのは、制約を止めない仕組みを作ることです。
例:見積が制約なら、まずこうします。
- 見積をテンプレ化する(部材・工数・前提条件を型にする)
- 必須情報チェックリストを作る(ヒアリング漏れで手戻りしない)
- 見積の時間をブロックする(割り込みを切る)
- 価格の「考え直し」を減らす(標準プラン+オプションに分ける)
STEP3:他を制約に従属させる(集客を増やしすぎない)
市場側の落とし穴はここです。
制約が「見積」なのに広告を増やすと、見込み客の滞留(在庫)が増えるだけで詰まります。
だから、やることは逆です。
- 集客量は「制約が処理できる量」に合わせる
- 受付条件を明確にする(対象外の問い合わせを減らす)
- 入口で振り分ける(簡易見積/要訪問/見送り)
つまり、「頑張って集客」が逆効果になる局面がある、ということです。
STEP4:制約を強化する(投資・仕組み化)
ここで初めて投資が正当化されます。
支点(制約)がはっきりしているから、投資が効く場所もはっきりするからです。
例:見積が制約なら、こういう強化が効きます。
- 見積担当の時間を確保する(現場対応と切り分ける)
- 見積作成の一部を外注する/積算ツールを入れる
- 提案資料を標準化する(事例・比較表・前提条件を固定)
- 商談の設計を入れる(初回で決めることを固定する)
STEP5:次の制約へ(改善は終わらない=運用になる)
制約は移動します。
- 見積が速くなると、次はクロージング(決裁)が詰まる
- クロージングが改善すると、次は納品体制が詰まる
だから改善は「一発で終わらせるもの」ではありません。
制約が移る前提で、運用として回し続けるものになります。
順番と原因を取り違えないために、この枠組みが効く理由(市場側版)
市場側(集客〜受注)では、「起きた順番」を「原因」だと思い込むことがよく起きます。
たとえば、こうです。
- SNS投稿のあとに問い合わせが来た(これは順番)
- だからSNSが原因だ(原因だと思い込む)
- でも受注は増えない(詰まりは別にある)
つまり、「順番として起きたこと」を原因扱いしてしまい、止まっている場所を取り違えている状態です。
その結果、打つ手がズレます。
TOCはここを直します。
因果を、説明のうまさで決めません。
因果を 制約(詰まり)という支点に固定します。
- 順番(地図):集客〜受注の流れを描き、どこで止まっているかを特定する
- 因果(テコ):止まっている一点に仮説を置く(いま全体を止めている原因は何か)
- 検証:受注までの速度/滞留(未処理)/営業工数で判断する
この3つで回すと、改善は「当たり施策探し」ではなくなります。
詰まりを一つずつ直して、流れを太くする運用になります。
だから売上は、偶然ではなく、再現できる形に戻ります。
追記|短い思考「因果と順番」と、TOC(制約)のつながり
この文書では、思考の枠組みとしてTOC(制約条件の理論)を使いました。
TOCは「改善のやり方」を与えてくれます。
ただし、方法だけをいきなり当てはめると、現場では別の落とし穴に落ちます。
改善が空回りする典型は、議論の最初から 順番(何が起きているか) と 因果(何が全体を動かしているか) が混ざったまま進むときです。
「因果と順番」が先に効く理由
そこで、短い思考として提示した「因果と順番」が効いてきます。
- 順番:AのあとにBが起きた、という時系列・工程
- 因果:AがBを起こした、という原因→結果(再現性)
経営が難しくなるのは、順番を見て「原因だ」と決めてしまうときです。
たまたま起きたこと、逆因果、第三要因が混ざります。
説明は増えるのに、改善はそろいません。
だから短い思考は、改善の前にまず 誤認を止めるためのレンズ になります。
ただし、レンズだけでは現場は変わらない
一方で、短い思考はレンズです。
見えるようになっても、「どう変えるか」は別問題です。
ここでTOCが、短い思考を 運用 に引き上げます。
TOCの強さは、因果を全体に散らさず、制約(ボトルネック)という一点に縛り続けるところにあります。
短い思考の言葉で言い直すと、こうなります。
- まず 順番(地図) を描いて、どこで詰まっているかを特定する
- 次に 因果(テコ) を、詰まり一点に置く
- 最後に、受注速度/滞留(未処理)/営業工数で検証して回す
この記事がやっていること
つまりこの記事は、こういう接続を実務の型にしたものです。
- 「因果と順番」という短い思考で、観察の仕方を整える
- TOCで、改善を回す(資源配分と手順に落とす)
短い思考が「問いを立てる」なら、TOCは「問いを資源配分に落とす」。
だから結論は、頑張る方向を増やすことではなく、詰まりを一点で動かすことに戻ります。
制約が動いたら、同じ型で次の制約へ進む。
改善は一回の正解ではなく、再現できる運用として残ります。
まとめ:売れないときほど、「入口」ではなく「詰まり」を疑う
市場側(集客〜受注)の改善は、気合では押し切れません。
やるべきことは、増やす前に「どこで止まっているか」を特定することです。
- 全体の成果を決めるのは、いまの制約(詰まり)です。
- 制約を見つけるには、まず順番(フロー)を描きます。
- 制約を動かす段階で初めて、因果が武器になります。
- 改善は一回の成功で終わりません。制約が移る前提で、運用として回します。
だから、「もっと集客」の前にやることがあります。
いま詰まっている一点を動かす。
それが、「売れる」を再現できる状態に戻す最短距離です。
おすすめ書籍(本文に則した選抜|ビジネス書/非ビジネス書)
ビジネス書
- 『ザ・ゴール』(ゴールドラット)
- 『クリティカル・チェーン』(ゴールドラット)
- 『影響力の武器(新版)』(チャルディーニ)—決裁・迷いの解消に直撃
- (補助)ファネル/営業パイプライン改善の入門書(“流れを描く”の技術として)
非ビジネス書
- 『ファスト&スロー』(カーネマン)—順番→因果誤認のバイアス対策
- 『原因と結果の科学(Causality)』(ジューディア・パール)—因果を仮説として置く
- 『選択の科学(Nudge)』(セイラー/サンスティーン)—“迷わせない設計”
- 『補給戦——何が勝敗を決めるのか』(クレフェルト)—前線よりフローが勝敗を決める

