現場で、よくこんな会話があります。
「図にしたのに、結局なにを変えればいいか決まらない」
「ホワイトボードが矢印だらけになって、議論だけ“進んだ感じ”になる」
「説明は増えた。でも改善がそろわない」
どれも、ありがちな話です。
そして、この「もっともらしさ」の中に、会議を空回りさせる落とし穴があります。
落とし穴は単純です。
矢印(→)1本で、因果(なぜ起きるか)と順番(どの順で起きるか)と関係(関連しているだけ)を混ぜてしまうことです。
矢印は便利です。
でも便利すぎて、一本で言いすぎます。
その瞬間、議論は混線し、結論が出なくなります。
この記事は、矢印を捨てません。
ただし、矢印の意味を固定します。
そうすることで、会議を「説明が増える場」から「何を変えるかを決める場」に戻します。
この記事で得られること
矢印(→)がなぜ会議を混乱させるのかを、構造として理解できます。
因果・順番・関係を混ぜない「図解ルール」を、そのまま社内標準にできます。
順番 → 因果 → 検証を、現場で回せる「会議の手順」に落とせます。
要点:
順番は“詰まり”を見つける。因果は“支点”に縛る。関係は“棚上げ”して、次の観測へ渡す。
矢印が混乱を生む理由——一本で三つを言ってしまう
会議でよく見る「A→B」。
この矢印1本が、読み手の頭の中で勝手に三つの意味に分かれます。
- 因果:Aが原因でBになった(なぜ)
- 順番:Aの次にBをやる(どの順に)
- 関係:AはBに影響していそう(関連がある)
問題は、これが会議の中で同時に起きることです。
最初は「原因(なぜ)」を議論していたのに、途中から「手順(どう進める)」になり、最後は「関係がありそう」で終わる。
その結果、こうなります。
- 施策が増える
- 役割が増える
- 図が増える
- でも、結論が出ない(再現できない)
矢印が悪いわけではありません。
矢印の意味を最初に固定しないことが、混乱の原因です。
先に整理:順番は地図、因果はテコ、関係は退避先
前回の言葉で言い直すなら、こうです。
- 順番(工程・時系列):何がどの順に起きるかを見る(地図)
- 因果(原因→結果):どこを動かせば全体が動くかを決める(テコ)
- 関係(関連・依存):つながりは見えるが、原因とは言い切れないものを置く(退避先)
会議が止まるのは、順番を描いた瞬間に、原因を一つに絞らず、あれこれ言い始めるときです。
「AのあとにBが起きた」という事実を見ただけなのに、いつのまにか「AがBの原因だ」と決めてしまう。
この時点で、議論はズレます。
原因の議論が、手順の議論にすり替わり、最後は「関係がありそう」で終わる。
だから、図は増えるのに、結論が出なくなります。
| 観点 | 因果(なぜ) | 順番(どの順に) | 関係(関連) | よくある混線 |
| 何を言っている? | 介入したら結果が変わる話 | Aの次にBが来る(やる) | AとBは一緒に動く/依存している | 一文で全部言う |
| 典型の問い | Aを変えたらBは変わる? | 「次は何?」 | 「同時に起きてる?」 | 「影響する」で逃げる |
| 図の記号 | ⇒(ラベル付き) | →(手順専用) | ↔(棚上げ=退避先) | →だけで書く |
| 判断の仕方 | 指標で検証できる(検証できない断定は「関係」へ退避) | 詰まりが見えるか(どこで止まるか、滞留が溜まるかが見える) | 観測を増やす(データを取る、分けて見る、条件を変えて確かめる) | 証拠のない断定 |
まず順番(→)で“詰まり”を確定する(因果はその後)
要点: 原因探しより先に、「どこで止まるか」を確定する。
会議の最初にやるべきことは、原因探しではありません。
順番(フロー)を描いて、止まっている場所を特定することです。
たとえば流れを、こう並べます。
流入 → 問い合わせ → 初回応答 → ヒアリング → 提案 → 見積 → 受注確定 → 着手 → 納品 → 継続
この中で、だいたいどこかが止まっています。
- 提案が出ない
- 見積が止まる
- 決裁が進まない
- 着手が遅れる
止まる場所が決まっていないまま「原因」を議論すると、話が散ります。
「広告が悪い」「営業が弱い」「価格が高い」…と因果が拡散して、結論が出ません。
順番は、流れの地図です。
まず「どこで止まるか」を確定する。
そのあとに初めて、因果(何を動かせば全体が動くか)を置けます。
因果(⇒)は一点に置く——「介入」と「指標」で縛る
要点: 因果を増やすほど、何を優先するかが決まらなくなる。だから一点に置く。
詰まり(どこで止まっているか)が見えたら、ここで初めて因果(⇒)を置きます。
そして因果は、介入(動かす)と指標(測る)で縛ります。
たとえば「提案が遅い」という詰まりに対して、因果はこう書きます。
- テンプレを整備する ⇒ 提案作成時間が短くなる
- 初回面談の項目を固定する ⇒ 手戻りが減る
- 割り込み対応を分離する ⇒ 提案が止まらない
ここで大事なのは、因果は最初は仮説でいいということです。
ただし、仮説のまま終えると、また「それっぽい説明」で終わります。
だから必ず、次の3点をセットで書きます。
- (条件) どの案件で効く?(効かない案件は?)
- (タイミング) いつから数字が動く?(今日?来週?来月?)
- (指標) どの数字が動く?
例:提案提出までの日数/提出率/受注率
因果が「説明」から「検証できる仮説」に変わった瞬間、会議は進みます。
関係(↔)は棚に上げる——因果にしない勇気
要点: 関係は重要です。ただし、この段階で因果だと言い切らない。
現場では「関係がありそう」を、そのまま「原因だ」にして失敗しがちです。
- 広告費 ↔ 売上
- 忙しさ ↔ 品質
- 値引き ↔ クレーム
たしかに、つながりは見えます。
でもこの時点では、いくらでも別の説明が入り込みます。
- 第三の要因があるかもしれない
- 逆向きの可能性がある(結果が原因を作っている)
- そもそも定義が混ざっている(何を“忙しさ”と呼ぶか、など)
ここで「Aが原因だ」と決めてしまうと、改善は運になります。
当たれば効く。外れたら疲れる。再現できない。
だから、関係は ↔ に逃がします。
そして「次に確かめること」を決めて終わります。
- 追加観測:比較できる条件を作る(Aあり/なし、時期、担当者など)
- 小さな実験:一部だけ介入してみる(限定的に変える)
- 例外探し:効かないケースを拾う(条件を特定する)
関係を棚に上げられる会議は、強いです。
無理に結論を急がず、次の観測に渡せるからです。
矢印を減らすミニ手順(30分)
要点:会議の“運用”として回す。
STEP1(10分)順番(→)だけでフローを書く
- 禁止:原因を言わない
- 目的:詰まり(滞留/手戻り/待ち)を一つ決める
STEP2(10分)詰まり一点に因果(⇒)を1〜2本だけ置く
- 介入(何を変えるか)を書く
- 指標(何が動くか)を書く
- 遅れ(いつ動くか)を書く
因果と順番と関係をつなぐ、会議の問い
要点:問いを挟むだけで、混線が止まる。
- いま話しているのは 因果/順番/関係のどれか?
- まず順番:流れのどこで詰まっている?
- 因果にするなら:何を介入する?何の指標が動く?
- 関係なら:因果に格上げするために何を観測する?
- 次回も同じ条件で再現できるか?
結論:「矢印を増やす」より「意味を固定する」
会議が止まるのは、矢印が足りないからではありません。
矢印が多すぎて、一本の中に意味が混ざるからです。
だから、矢印は増やしません。意味を固定します。
- → は順番(次にやること)
- ⇒ は因果(介入+指標)
- ↔ は関係(棚上げ+観測)
この3つに分けた瞬間、図は「説明のため」ではなく、意思決定のために使えるようになります。
短い思考「因果と順番」と、図解術の接続
短い思考として提示した「因果と順番」は、会議の誤認を止めるレンズです。
- 順番:Aの後にBが起きた(工程・時系列)
- 因果:AがBを起こした(再現できる原因→結果)
経営が難しくなるのは、順番を見て「原因だ」と決めてしまうときです。
たまたま起きたこと、逆因果、第三要因が混ざります。
その結果、「説明」は増えるのに「改善」がそろいません。
そして今回の図解術は、この短い思考を会議の運用ルールに落としたものです。
- まず 順番(→) で、詰まりを特定する
- 次に 因果(⇒) を一点に置き、指標で縛る
- それ以外は 関係(↔) として棚に上げ、観測に渡す
短い思考が「問いを立てる」ものだとしたら、図解術は「問いを意思決定に落とす」ものです。
だから結論は、矢印を増やすことではありません。
矢印の意味を固定して、次に何を変えるかが決まる状態に戻すことです。
おすすめ書籍(この記事から5冊に厳選|ビジネス+非ビジネス)
- 『ザ・ゴール』(ゴールドラット|ビジネス)
「詰まり一点」の威力を、物語で体得する。 - 『ファスト&スロー』(カーネマン|非ビジネス)
順番を見て因果だと思い込む、人間のクセの解剖書。 - 『因果推論の科学』(パール/マッケンジー|非ビジネス)
「Aの後にB」ではなく「Aを動かすとBが変わる」を、頭の骨格にする。 - 『失敗の本質』(戸部良一ほか|非ビジネス)
“関係”を“因果”と誤認したまま突っ込む怖さを、歴史で学ぶ。 - 『クリティカル・チェーン』(ゴールドラット|ビジネス)
割り込み・多重タスクが、いかに詰まりを増やすか。運用の視点が身につく。

