経営会議で、よくこんな会話があります。
「広告を増やしたのに売上が伸びない」
「値上げしたら利益が出た。だから次も値上げだ」
「研修をやったら数字が上がった。人材育成が正解だ」
どれも、言っていることはもっともらしい。
でも、この“もっともらしさ”の中に、経営を狂わせる落とし穴があります。
落とし穴は一つです。
起きた順番(時系列)を、そのまま原因(因果)だと決めてしまうことです。
この記事で得られること
「順番」と「因果」を混同しないための見分け方が分かります。
会議で“それっぽい話”を、検証できる仮説に変える型が手に入ります。
順番で詰まりを見つけ、因果で再現性を取る――そのまま回せる実務手順に落とせます。
先に整理:
順番は「詰まり」を見つける。因果は「再現性」を取る。
| 観点 | 因果(原因→結果 | 順番(時系列・工程) |
| 何を言っている? | AがBを起こした(作用の話) | AのあとにBが起きた(前後の話) |
| 価値(経営で何に効く?) | 再現性を取れる(次も起こせる) | 詰まりを見つけられる(どこで止まるか分かる) |
| 典型的な誤り | 相関・印象を因果にしてしまう/物語で決める | 前後関係を見て「だから原因だ」と決めてしまう |
| 会議での問い(見分け) | 「それが原因なら、どの指標が動く?」 | 「工程のどこが細い?どこで止まる?」 |
| 実務の使い方(手順) | 詰まり一点に 因果仮説→小さく検証→固定 | 全体の工程を並べて 詰まり位置を特定 |
以降は、この表の「使い方」を会議の型として落としていきます。再現性」を取る。
「順番」と「因果」は、似て非なるもの
要点: 順番は観察、因果は再現。経営は“再現性”を取りにいく仕事です。
順番とは、ただの前後関係です。
AのあとにBが起きた。 それ以上でも、それ以下でもありません。
一方、因果とは作用関係です。
AがBを起こした。 つまり、Aに手を入れれば、Bがもう一度起きる(再現する)という話です。
この違いは、経営にとって致命的です。
順番を因果だと勘違いすると、再現できない打ち手に資源を投下してしまうからです。
- 順番=観察(起きた順)
- 因果=再現(手を入れれば結果が動く)
経営が壊れるのは、たいてい「順番」を信じたとき
要点: 順番が合っていても、因果(本当の原因)が“別の場所”にあるのは普通に起きます。
たとえば、こうです。
例A:たまたま(外部要因)
値上げした → 利益が出た。
しかし同じ時期に、競合が撤退していた。原材料が下がっていた。繁忙期だった。
順番は合っている。でも原因は別の場所にある。
例B:逆因果
SNS投稿を増やした → 売上が上がった。
実は、売れ始めたから投稿が増えた。つまり、原因と結果が逆だった。
例C:第三の要因
研修した → 業績が上がった。
実は、評価制度を変えた。担当を変えた。大型案件が入った。
複数の要因が同時に動いていた。
経営では、前後関係(順番)は見えやすい。
一方で、作用関係(因果)は見えにくい。
だから人は、見えやすいもの(順番)を見て、見えにくいもの(因果)を語ってしまいます。
では、順番は不要か?——むしろ逆だ
要点: 因果より先に、順番で“詰まり”を特定します。
ここが重要です。経営では、因果より先に順番が必要です。
順番は、原因を考える前に「どこで止まっているか」を特定するための道具だからです。
売上が伸びないとき、原因は無数にあります。
でも工程として見ると、詰まりはだいたい特定の場所に集約します。
たとえば流れはこうです。
集客 → 反応 → 面談 → 提案 → 見積 → 受注 → 納品 → リピート
ここで見るのは、たった二つです。
- どこが細いのか
- どこで止まっているのか
まずここを見える化しないと、原因の話があちこちに広がって、どれが本命か分からなくなります。
順番は、経営の配管図です。
どこが詰まっているかが分からないまま原因を議論すると、会議は抽象論で終わります。
因果は「一点突破」でつくる
要点: 詰まり一点にだけ因果仮説を置き、検証できる形にする。
因果を全体で探すと、必ず迷子になります。
実務では、まず順番(フロー)で詰まりを特定します。
そのうえで、詰まり一点にだけ因果仮説を置きます。
たとえば「面談 → 提案」が細いなら、仮説はこうなります。
- 課題の言語化が弱い → 提案が刺さらない
- 提案の型がない → 作るのに時間がかかる
- 意思決定者に届いていない → 先延ばしになる
ここで大事なのは、因果を“物語”で終わらせないことです。
検証できる仮説として置きます。
「たぶんこうだ」ではなく、こう決めます。
- もしこれが原因なら、どの数字が動くはずか(指標を決める)
例:提案提出までの日数/提案提出率/受注率/失注理由の内訳
因果とは、説明ではありません。
次に何を変えるかを決めるための仮説です。
因果と順番をつなぐ、経営者の問い
要点: 問いを1枚はさむだけで、会議が“資源配分”に戻ります。
会議で効く問いを残します。
- それは「因果」か「順番」か?
- Aの前に、何が起きていた?(逆因果チェック)
- 同時に変えたものは何?(第三要因チェック)
- その因果が正しいなら、どの工程の歩留まりが動く?
- 次も同じ順番で、再現できるか?
この問いをはさむだけで、会議の質は変わります。
“それっぽい話”から、資源配分の話へ移れるからです。
結論:順番で詰まりを見つけ、因果で再現性を取る
経営の基本は、次の順序です。
- 順番(工程)を整えて、詰まりを特定する
- 詰まり一点に因果仮説を置く
- 小さく検証し、再現性として固定する
順番は、現場を動かします。
因果は、未来を再現します。
この二つを取り違えないこと。
それが、経営を「偶然」から「設計」に戻す、いちばん短い道です。
因果と順番を“経営の技術”に変えるおすすめ書籍
1) まず1冊(読みやすく、すぐ効く)
『イシューからはじめよ』(安宅和人)
「順番の議論(忙しい)」から「因果の議論(効く)」へ移す本。
“何を解くべきか”を先に固定することで、会議が抽象論で溶けるのを防ぎます。
『Why型思考』(深沢真太郎)
「だから何?」「なぜ?」を筋道として持てるようになる。
順番(現象)を因果(理由)に変換する“問いの型”として使いやすいです。
2) 因果を「再現性」にする(意思決定・学習の設計)
『失敗の科学』(マシュー・サイド)
成功・失敗を“物語”で終わらせず、検証と改善に変える視点が得られます。
順番の体験談を、因果の学習に変える本。
『ファクトフルネス』(ハンス・ロスリング ほか)
「順番を見て因果だと思い込む」錯覚を壊してくれます。
第三要因・思い込み・都合の良い解釈に対する免疫がつきます。
3) データで因果に迫る(“検証可能な仮説”をつくる)
『統計学が最強の学問である』(西内啓)
現場で使えるレベルで「相関と因果」「検証の考え方」を掴める本。
マーケ・営業・採用・研修の“効いた/効かない”を整理しやすくなります。
『その数学が戦略を決める』(イアン・エアーズ)
勘の意思決定から、テストとデータで意思決定へ。
小さく検証して再現性を取る、という記事の結論と直結します。
4) 会議・意思決定の質を上げる(経営者向け)
『決断の心理学(原題:Thinking, Fast and Slow)』(ダニエル・カーネマン)
順番=直感のストーリー化、をやりがちな理由が分かる。
「それっぽい説明」を疑う力がつきます(ただし厚め)。
『ブラック・スワン』(ナシーム・ニコラス・タレブ)
「説明できた気になる危うさ」への警鐘。
過去の順番を整えて語るほど、未来を見誤る――という視点が得られます。

