「思考とは何か?」
この問いは抽象的に見えて、実は経営の現場でとても実務的です。
なぜなら、思考を “概念(頭の中の枠組み)”として扱うのか、 “行動様式(会議や意思決定の運用)”として扱うのか で、改善の打ち手がまったく変わるからです。
結論から言えば、思考は「概念」でもあり「行動様式」でもあります。
ただし、同じ言葉で両方を指すと混乱が起きます。ここでは、経営の意思決定に役立つ形で整理します。
この記事で得られること
- 思考を 「概念(レンズ)」と「行動様式(運用)」 に分けて混乱を止められる
- いまの課題が レンズの問題か/運用の問題か を診断できる
- 明日からできる最小手順(問い・事実/解釈・実験)で改善が始められる
先に整理:思考は「レンズ(概念)」と「運用(行動様式)」のセットである。
| 観点 | 概念としての思考(レンズ) | 行動様式としての思考(運用) |
| 何を言っている? | 世界を切り取る枠組み(定義・問い・視点) | その枠組みを使う手順(会議・意思決定の型) |
| 価値(経営で何に効く?) | 論点が揃い、問題設定が深くなる | 決める→動く→学ぶが回る |
| 典型的な弱さ | 言葉が噛み合わない/論点が散る | 結論が出ない/出ても動かない |
| 会議での問い(見分け) | 「そもそも何を問題とする?」 | 「次に何を試し、何で判定する?」 |
| 実務の整え方 | 定義・問い・因果の型を揃える | 事実/解釈/実験の運用を揃える |
以降は、この表の「使い分け」を、経営の診断と実装に落とします。
「概念」と「行動様式」は、似て非なるもの
要点:同じ“思考”でも、レンズと運用を混ぜると打ち手がズレる。
思考=概念(頭の中の“地図”)と聞くと、知識や頭の良さの話になりがちです。
しかし経営の現場では、より具体的にこう扱えます。
- 何を重要とみなすか(前提・価値観)
- どう因果をつなぐか(説明の型)
- どんな言葉で切り分けるか(概念・定義)
- どの問いを立てるか(問題設定)
たとえば「売上が落ちた」という同じ事実でも、
市場要因として見るのか、顧客体験として見るのか、組織能力として見るのか。
これは“見方(レンズ)”の違いであり、概念の違いです。
会議が噛み合わないのは、たいてい「概念」が弱いとき
要点:レンズが揃わないと、会議は“同じ言葉で別の話”になる。
概念が弱いと、会議はこうなりがちです。
- 言葉が噛み合わない
- 論点が散る
- 問題設定が浅い(対症療法が増える)
この場合、必要なのは「施策」より先に、
定義・視点・問いを揃えることです。
結論が動かないのは、たいてい「行動様式」が弱いとき
要点:運用が揃わないと、結論が出ても学習が残らない。
思考=行動様式(現場で回す“運用”)とは、
頭の中の枠組みを意思決定で回すための習慣・手順です。
- まず観察し、事実を集める
- 事実と解釈を分けて話す
- 仮説を置き、代替案を並べる
- 小さく試し、検証して学ぶ
- 合意形成と実行の設計をする
会議で「誰が悪いか」「何が正しいか」にすぐ飛びつかず、
- 何が起きた?(事実)
- なぜ起きた?(仮説)
- 次に何を試す?(実験)
この順序で進む組織は、意思決定の質が上がり、学習が蓄積します。
行動様式が弱いと、現場はこうなりがちです。
- 結論が出ない(または出ても動かない)
- 決めたのに検証が回らない
- 属人的な「勘と経験」に戻る
経営での使い分け:どこを直すべきかが見える
要点:レンズの問題か、運用の問題かで“処方箋”が変わる。
1)概念(レンズ)を整えるべきサイン
- 部署間で同じ言葉を使っているのに意味が違う
- 施策が増えるが、全体像が見えない
- 「結局、何が問題なのか」が定まらない
→ 必要なのは 定義・視点・問いの再設計 です。
2)行動様式(運用)を整えるべきサイン
- 会議の結論が実行につながらない
- 実行しても振り返りがなく、同じ議論を繰り返す
- 意思決定が属人化し、再現性がない
→ 必要なのは 会議設計・意思決定プロセス・検証の型 です。
小さな実践:明日からできる「思考の二点セット」
要点:レンズと運用を同時に整える最短手順は「問い→事実/解釈→実験」。
1)問いをひとつに絞る(レンズ)
例:「売上が落ちた」ではなく
「既存顧客の継続率が落ちた原因は何か?」
2)事実と解釈を分ける(運用)
- 事実:数値・観察・顧客の発言
- 解釈:なぜそうなったか、の仮説
3)次の一手は“実験”にする(運用)
正解を当てに行くより、当たりを増やす。
例:2週間だけ価格表示と提案導線を変えて検証する。
この3点を繰り返すと、思考は「賢さ」ではなく「組織の筋肉」になります。
結論:思考は“能力”ではなく“設計できるもの”
思考を「概念」と「行動様式」に分けて捉えると、属人的な“頭の良さ”の話から離れて、組織として設計し、鍛える対象になります。
もし今、「議論が噛み合わない」「結論が動かない」そんな手触りがあるなら、問題は社員の能力ではなく、思考の設計(レンズと運用)にあるのかもしれません。

