——「詰まり」を一点で動かして、経営を“再現できる状態”に戻す
現場では、こんな会話がよく起きます。
「忙しいのに、利益が残っている感じがしない」
「人は足りない。段取りも回している。なのに、どこかで崩れる」
「何を直せばいいのかが、毎回変わる」
どれも、よく分かる話です。
そして、この“もっともらしさ”の中に、改善を空回りさせる落とし穴があります。
落とし穴は一つです。
順番(流れ)を見た瞬間に、原因の話をあれこれに広げてしまうことです。
この記事で得られること
『ザ・ゴール』の核心(TOC)が、なぜ改善を「再現できる形」にするのかが分かります。
順番 → 因果 → 検証を、現場で回せる「改善手順」に落とせます。
仕出し屋の例で、「料理そのもの」ではない場所がボトルネックになる感覚をつかめます。
先に整理:
順番は“詰まり”を見つける。因果は“支点(制約)”に縛る。検証は“数字(3指標)”で決める。
| 観点 | TOC(ザ・ゴール) | よくある改善(部分最適) |
| まず何を見る? | 順番(フロー):どこで詰まっているか | 各部門の課題:あれもこれも |
| 因果はどこに置く? | 制約(ボトルネック)一点 | 「それっぽい原因」を複数に置く |
| 何で判断する? | スループット/在庫/業務費用 | コスト削減・稼働率・頑張り |
| 起きやすい失敗 | 制約を動かしたつもりで別を触る | 改善が増えるほど混乱する(優先順位が消える) |
以降は、この表の「使い方」を、そのまま改善の手順に落としていきます。
『ザ・ゴール』が提示する骨格は「制約条件の理論(TOC)」
要点: 会社(システム)を良くしたいなら、いちばんの制約に集中する。
TOC(Theory of Constraints)は、焦点を「各所の最適化」から、全体の流れ(スループット)を太くすることへ切り替えます。
部分を磨いても、流れのどこかが細いままだと、全体は良くなりません。
だから、因果(テコ)を一点に寄せます。
全体を動かせる支点が「制約(ボトルネック)」です。
TOCの評価軸は3つだけ(スループット会計)
要点: コスト削減より先に、「売れる流れ」を増やす。
TOCは判断を複雑にしません。基本、見る数字はこの3つだけです。
- スループット:販売によってお金を生み出す速さ
- 在庫(投資):将来売るために、お金が固定されているもの
- 業務費用(営業費用):在庫をスループットに変えるために使うお金
ここで大事なのは、TOCの重心が「まずコストを削る」ではなく、
まずスループットを増やす(流れを太くする)ところにあることです。
「順番」は地図、「因果」はテコ —— テコの支点が制約
要点: 順番で詰まりを見つけ、因果を「制約」一点に置いた瞬間、改善は再現できる形になります。
前回の言葉で言い直すと、こうです。
- 順番(工程・流れ)を描く:どこで詰まっているかが見える(地図)
- 因果(なぜ詰まるか)を一点に置く:そこを動かせば全体が動く(テコ)
TOCが強いのは、因果を全体に散らさないところです。
因果は一点に寄せる。つまり、制約(ボトルネック)に寄せる。
まず順番で“詰まり”を特定する(因果はその後)
要点: 原因探しより先に、流れのどこで止まっているかを確定する。
売上が伸びない/現場が回らないとき、原因は無数にあります。
でも工程として見れば、詰まりはだいたい「特定の場所」に集まります。
ここを見える化せずに原因を議論すると、原因の話があちこちに広がって、どれが本命か分からなくなります。
「広告が…」「営業が…」「人が…」と話が広がって、結論が出ません。
順番(フロー)は、経営の配管図です。
まず「どこで止まっているか」を確定する。
因果(なぜ止まるか)は、そのあとで十分です。
例:仕出し屋の「売上が伸びない」は、料理ではなく箱詰めかもしれない
要点: 制約は「忙しそうな場所」ではなく、全体を止めている場所に出ます。
家族経営の仕出し屋を想像してください。
注文は取れている。なのに繁忙期になると、こうなる。
- 配達が遅れる
- 品質がばらつく
- 追加注文を断る
- 忙しいのに利益が残っている感じがしない
このとき現場は、原因の話を広げがちです。
「人手が足りない」「料理の手順が…」「仕込みが…」と、あれこれ言いたくなる。
でもTOCは、先に順番(流れ)を描きます。
仕出しの流れ(順番)
受注 → 献立確定 → 仕込み → 調理 → 盛付・箱詰め → 出荷準備 → 配達 → 回収/洗浄
ここで、繁忙期にいちばん詰まっているのが「盛付・箱詰め」だとします。
調理は進む。けれど箱詰めが追いつかない。
その結果、厨房に料理が滞留し、品質が落ち、配達が押す。追加注文も断る。
この瞬間、因果は一点に定まります。
箱詰め工程が制約
→ 全体のスループット(売上を生む流れ)を支配している
TOCの「5つのステップ」を、仕出し屋に当てはめる
要点: 改善は“思いつき”ではなく、制約を中心に回す運用になります。
STEP1 制約を特定する
探すのは「いちばん遅い工程」ではありません。
全体を止めている工程です。
目印はこれです。
滞留が生まれる場所/待ち行列が伸びる場所が制約です。
例)箱詰めが制約になっているサイン
- 箱詰め台が1台で列ができる
- 容器や備品が散らかっていて探す時間が出る
- 最終チェックが一人に寄って止まりやすい
STEP2 制約を徹底活用する(止めない・迷わせない)
制約は「王様」です。ここが止まると全体が止まります。
だから最初にやるのは、制約を止めない仕組みを作ることです。
例)箱詰めを止めないために
- 容器・箸・おしぼりの定位置化(探す・迷うをゼロにする)
- メニュー別の詰め順カード(型を固定する)
- 電話・来客対応を分離(割り込みを入れない)
STEP3 その他を制約に従属させる(作りすぎ禁止)
ここが仕出し屋で一番やらかしやすいところです。
料理を速く作りすぎると、箱詰め前に滞留して、品質が落ちて配達が押します。
“頑張って作る”が逆効果になる局面です。
例)制約に合わせる運用
- 仕込み・調理は、箱詰めのペースに合わせて出す
- 一時置きのルール(時間・温度)を決める
- 「先に作って安心」をやめる(滞留=品質低下+お金の固定化)
STEP4 制約を強化する(投資の判断)
ここで初めて投資が正当化されます。
支点(制約)が明確だから、投資が効く場所も明確だからです。
例)箱詰めが制約なら
- 箱詰め台をもう1面増やす
- ピーク時だけ、パートを箱詰めに投入する
- 容器を統一して迷いを減らす
※もし制約が「配達」なら、ここでやるべきは箱詰め台ではなく、配達ルートの再設計です。
STEP5 次の制約へ(終わらない)
箱詰めが改善されると、次は配達が詰まります。
配達が改善されると、次は受注のさばき方が詰まるかもしれない。
制約は移動します。
だから改善は“一回の成功”ではなく、回し続ける運用になります。
因果と順番をつなぐ、経営者の問い
要点:問いを1枚挟むだけで、改善が“資源配分”に戻る。
- いま議論しているのは「因果」か「順番」か?
- 流れ(工程)のどこで詰まっている?(まず地図)
- その詰まりが制約なら、止めている“具体”は何?(迷い/割り込み/手待ち)
- それが原因なら、どの数字が動く?(スループット/在庫/業務費用)
- 次も同じ条件で、再現できるか?
結論:「頑張る」より「詰まりを一点で動かす」
経営の基本は、次の順序です。
- 順番(フロー)を描いて、詰まり(制約)を特定する
- 因果を制約一点に置く(テコの支点を決める)
- 指標(3つ)で検証し、再現性として固定する
- 制約が動いたら、次の制約へ回す(改善を運用にする)
順番は、詰まりを見せる。
因果は、全体を動かす。
そしてTOCは、その二つを「再現可能な改善手順」に変えるエンジンです。
短い思考「因果と順番」と、思考の枠組みTOCの接続
この文書では、思考の枠組みとして TOC(制約条件の理論) を使いました。
TOCは「改善のやり方」を与えてくれます。
ただし、やり方だけをいきなり当てはめると、現場では別の落とし穴に落ちます。
改善が空回りする典型は、議論の最初から 順番(何が起きているか) と 因果(何が全体を動かしているか) が混ざったまま進むときです。
そこで効いてくるのが、短い思考として提示した「因果と順番」です。
- 順番:Aの後にBが起きた(時系列・工程)
- 因果:AがBを起こした(原因→結果=再現性)
経営が難しくなるのは、順番を見て「原因だ」と決めてしまうときでした。
たまたま起きたこと、逆因果、第三要因が混ざります。
その結果、説明は増えるのに、改善はそろいません。
つまり短い思考は、改善の前にまず 誤認を止めるためのレンズ になります。
ただし、短い思考はレンズであって、エンジンではありません。
見えるようになっても、「どう変えるか」は別問題です。
ここでTOCが、短い思考を 運用 に引き上げます。
TOCの強さは、因果を全体に散らさず、制約(ボトルネック)という一点に縛り続けるところにあります。
短い思考の言葉で言い直すなら、こうです。
- まず 順番(地図) を描いて、詰まりを見つける
- 次に 因果(テコ) を、詰まり一点に置く
- 最後に スループット/在庫/業務費用で検証し、改善を回す
つまりこの記事は、「因果と順番」という短い思考で観察を整え、TOCで改善を回す。
この接続を、実務の型にしたものです。
短い思考が「問いを立てる」ものだとしたら、TOCは「問いを資源配分に落とす」ものです。
だから結論は、頑張る方向を増やすことではありません。
詰まりを一点で動かすことに戻ります。
制約が移動したら、同じ型で次へ進む。
改善は一回の正解ではなく、再現できる運用として残ります。
おすすめ書籍(この記事から5冊に厳選|ビジネス+非ビジネス)
1) 『ザ・ゴール』エリヤフ・ゴールドラット(ビジネス)
この記事の中核そのもの。
「順番=地図」「因果=テコ」「支点=制約」を、物語として腹落ちさせる1冊。
2) 『クリティカル・チェーン』エリヤフ・ゴールドラット(ビジネス)
“制約は移動する/改善は運用になる”を、プロジェクト版で体得。
割り込み・多重タスク・納期遅れが、いかに“制約を止めるか”の問題かが見える。
3) 『ファスト&スロー(Thinking, Fast and Slow)』ダニエル・カーネマン(心理学・非ビジネス)
「順番を見て因果だと思い込む」人間のクセの解剖書。
TOCが因果を一点に縛るのは、現場の“それっぽい説明”暴走を止めるためだと腑に落ちます。
4) 『原因と結果の科学(Causality)』ジューディア・パール(科学哲学・非ビジネス)
因果を“説明”ではなく“操作できる仮説”にするための背骨。
「Aの後にB」ではなく「Aを動かすとBが変わる」をどう考えるか——この記事の“再現可能性”と直結します。
5) 『補給戦――何が勝敗を決めるのか』マーチン・ファン・クレフェルト(歴史・非ビジネス)
“勝敗は前線ではなく流れで決まる”という、TOCの歴史的裏付け。
戦闘(部分最適)より補給(フロー)。仕出し屋の「料理より箱詰め」問題を、一気にスケールアップして理解できます。

