——答えの前に、論点(何をどう決めるか)を起動する文章
経営の現場には、「一般論として正しい話」が多い。
問題は、それが論点(何をどう決めるか)の代わりになってしまうことです。
たとえば、
「顧客第一が大事」
「DXが必要」
「効率化しよう」
こういう言葉は、方向性としては間違っていません。反対もしにくい。
でも、こういう言葉が会議の中心に座ると、よく起きることがあります。
- みんな賛成する
- なのに、何も決まらない
- 施策やToDoだけが増える
なぜか。
それらが「正しい話」のままで、決める形になっていないからです。
決める形にするには、焦点が必要です。
このサイトでは、その焦点を 論点 と呼びます。
論点は「悩み」ではありません。
論点は 意思決定の形 をしています。つまり「何を、どう決めるか」。
- 値上げを今月やるか、延期するか
- 当日仕上げを続けるか、条件付きにするか
- 新規を追うか、既存の単価を上げるか
そして「短い思考」は、答えを増やす文章ではなく、
この 論点を立て直すための“起動文” です。
この記事で得られること
- このサイトで言う「短い思考」の定義
- 「短い思考」と「論点」の関係(なぜ短いのに効くのか)
- 読み手が“いい話”で終わらせず、意思決定に落とす使い方
- 書き手としての「短い思考」の型(論点が立つ書き方)
- おすすめ書籍(ビジネス4・非ビジネス4)と、背景文献(注)
先に整理
このサイトの文章は、読み物ではなく 経営の道具 として設計しています。
役割は大きく3つです。
- 短い思考:論点を起動する(焦点を合わせる)
- 思考の枠組み:論点を整理する(構造化する)
- 実践と対話:論点を運用する(会議と現場で回す)
順番が大事です。
論点が立っていない状態で枠組みや施策に入ると、経営はこうなりがちです。
- 施策が増える
- 指標が増える
- 説明が増える
- でも、決まらない/揃わない
だから「短い思考」は、いちばん短いのに、最初に置きます。
論点が立たない限り、何も始まらないからです。
短い思考とは「論点を起動する文章」である
このサイトでの定義を、いったん言い切ります。
短い思考とは、フォーマットに回収されない“論点”を、短い文章で立ち上げるための文章です。
答えではなく、何をどう決めるかを起動します。
短い思考が扱うのは「施策」ではありません。
施策の前に、いったん止めたいものがあります。
それは、論点が崩れていく典型パターンです。
論点が崩れる3つの形
経営が詰まるとき、論点はだいたい次の形で崩れます。
1) 論点が「悩み」になる
× 売上が不安
× 忙しい
× 人が足りない
これらは状況説明で、論点ではありません。
論点にするなら「決める形」にします。
○ 値上げを今月やるか、延期するか
○ 当日仕上げを「続ける/条件付き/やめる」のどれにするか
○ 採用を追うのか、採用しない前提で工程を組み替えるのか
短い思考は、この“決める形”を取り戻します。
2) 論点が「手段」になる
× SNSをやる
× 補助金を取る
× 新サービスを作る
手段は論点ではありません。
論点は、「何を改善するのか」「何を捨てるのか」を含みます。
○ 新規を増やすのか、既存の単価を上げるのか
○ 回転率を上げるのか、品質を守るのか
○ 受注フローのどこを細くするのか
短い思考は、“手段の正しさ”から“決める焦点”へ戻します。
3) 論点が「正しい話(一般論)」になる
× 顧客第一が大事
× DXが必要
× 効率化しよう
ここで言う「正しい話」は、一般にそう言われがちな話のことです。
方向性としては正しい。でも、そのままだと論点になりません。
論点は、こういう言葉を 運用できる定義に落とします。
○ 顧客第一を「何で測るか/どこまでやるか」を決める
○ DXを「どの業務の何のためにやるか」を決める
○ 効率化で「削るのはどこで、守るのはどこか」を決める
短い思考は、正しさを否定しません。
ただし、正しい話が論点の代わりにならないように、決める形へ変換します。
「短い」ことの意味:短くするのは、焦点(論点)を残すための編集
長い文章には、説明が入りやすい。
説明が増えると、受け手は「理解した気」になります。
でも経営は、理解ではなく 決定です。
決定に必要なのは、説明の網羅性よりも、焦点です。
情報が多いと焦点が散ります。
だから短い思考は、意図的に情報を削ります。
短くするのは“短文礼賛”ではなく、焦点(論点)を残すための編集です。
削って、問いだけを残す。
その問いが「論点」になる瞬間が、経営に効きます。
使い方:短い思考を“論点”に変換する(5分)
短い思考は、読み終わって「いい話」で終わると弱い。
意思決定に効かせるなら、最後に必ず論点へ戻します。
手順
- 引っかかった一文を抜く(コピーでも手書きでも)
- それを論点の型に変える
型:A=「何を、どう決めるか」
補助:(いつ/どの範囲/何を捨てる) - 今日の観測を1つだけ置く(数字 or 顧客反応 or 工程)
- 行動を1つだけ決める(論点に効く最小アクション)
例(変換)
- 「忙しい」
→ A:当日仕上げを続けるか、条件付きにするか
→ 観測:断った客数/待ち時間
→ 行動:条件を紙にして掲示・説明する - 「売上が不安」
→ A:新規を増やすか、既存の単価を上げるか
→ 観測:リピート率/単価別の件数
→ 行動:値上げ理由を1行で言語化する
書き手としての型:短い思考は“論点が立つ短文”である
短い思考は自由に見えて、型があります。
型があるから、短くても論点が立ちます。
型A:違和感 → 要点 → 論点
- 違和感(現場のひっかかり)
- 要点(1行で言い切る)
- 論点(何をどう決めるか)
型B:定義のズレ → 失敗パターン → 論点
- 言葉のズレ(戦略/価値/効率化…)
- ズレが生む空回り(混線・誤認・停滞)
- 論点(何を先に決めるべきか)
小さな対話:論点がない会議/論点が立った会議
社長「売上が不安で…何か打ち手ないですか」
私「“不安”は状況です。今日は何を決めたいですか」
社長「ええと…」
私「“値上げを今月やるか” “既存を深掘るか” “当日仕上げをどうするか” どれです?」
社長「……当日仕上げです。続けるか、条件付きにするか」
私「それが論点です。今日の観測は何を置きます?」
社長「断った客数と、待ち時間です」
私「OK。決めましょう」
短い思考は、この瞬間(論点が立つ瞬間)を作るためにあります。
結び:短い思考は、論点を立て直すための最小文章
短い思考は、施策を増やすための文章ではありません。
論点を立て直すための文章です。
答えを急ぐほど、論点はぼやける。
ぼやけた論点の上では、枠組みも計画も空転する。
だから短い思考は、最初にこう問います。
いま決めるべき論点は何か。
次に読む
- 論点が立ったら → 「思考の枠組み」で整理する(因果/順番/関係、制約)
- 論点を現場で回すなら → 「実践と対話」で運用に落とす
おすすめ書籍(この記事と相性が良いもの)
ビジネス系(4冊)
- 『新版 経営行動』ハーバート・A・サイモン
意思決定は「選ぶ」だけじゃなく、問題を見つけて“選べる形”にするところが本体だと分かります。「論点=決める形」を背骨から強くしたい人に。 - 『ファスト&スロー(上・下)』ダニエル・カーネマン
人は「正しい説明」だけで判断しない。提示のされ方(フレーム)で選択が変わる。だから一般論が会議を止める、という冒頭が腹落ちします。 - 『センスメーキング・イン・オーガニゼーションズ』カール・E・ワイク
不確実な現場で、人は理解してから動くのではなく、動きながら意味を作る。短い思考を“起動文”として置く意味が、組織論として腑に落ちます。 - 『ザ・ゴール』エリヤフ・ゴールドラット
正しい改善を足しても全体は良くならないことがある。何を先に決めるか(論点の順位)がすべて。決める順番を物語で体得できます。
非ビジネス系(4冊)
- 『ソクラテスの弁明・クリトン』プラトン
「正しいこと」を語る前に、「それは何か?」を問い直す。論点がスローガンに滑る瞬間を止めて、定義から立て直す感覚が身につきます。 - 『方法序説』ルネ・デカルト
思考を前に進めるのは知識量ではなく、疑い方と切り分け方。短く編集して焦点を残す、という方針を“方法”として支えてくれます。 - 『科学革命の構造【新版】』トマス・S・クーン
人は事実そのものではなく枠組み(パラダイム)で世界を見る。「正しい話」が論点にならない理由を、知の構造として理解できます。 - 『新版 思考の整理学』外山滋比古
情報過多の中で、どう言葉をつくり、思考を前に進めるか。読後に論点へ変換する(抜き書き→問い→決める)運用を習慣化しやすいです。

